「食パン買ってきて!」と頼まれて、買ってくるのはどんな食パンでしょうか?
育った環境で買ってくる食パンはきっと十人十色だと思います。
食パンとは日本独特の呼び方で、各国の言葉に訳すと見た目が似たパンたちの名前になります。
▣イギリスパン・イングリッシュブレッド・ティンブレッド…イギリスの型焼き食パン
▣パンドミーPain de mie…フランスの型焼き食パン
▣ホワイトブレッド・プレーンブレッド…アメリカの型焼き食パン
あなたが思い浮かべたのはこの中にありましたか?
「食パン」は日本の造語
日本でいう食パンは「大きな長方形の箱型で焼かれたパン」をさします。造語です。
そして、生地の配置の仕方や形、フタの有無によって呼び方が変わります。
▣山型食パン…ラウンドトップ
▣角型食パン(角食)…フタをして焼くプルマンブレッド
▣ワンローフ食パン…ワンローフ型に生地を入れたもの
山型食パンは、
一部のエリアで「山食」と呼ばれています(^^♪
イギリスの食パン
イギリスで18世紀ころ作られたのが、カナダ産の強力粉を使って金型に入れて焼いた
山型の食パンです。フタをしないので、山型に盛り上がった形をしています。
山の数は2つか3つが多いですが、4つもありこの限りではありません。
金型の素材がブリキ(Tin)だったことから、ティンブレッドと呼ばれることもあります。
イギリスでは白い小麦が主流ですので、白くて柔らかい食パンが人気になり、イギリス系の植民地や食文化が世界に広まっていきました。
製法は様々ありますが、中種法(サワー種)を使ったものが伝統です。
四角いサンドウィッチを好むイギリスでは、サンドウィッチの流行に併せて食パンの改良が進んでいます。
日本では明治時代にイギリス人によって、この“型に入れてフタをしないパンが作られた”ので
「イギリスパン」と呼ばれるようになりました。
参考;パンの作り方② 中種法(サワー種)
サンドウィッチのはなし
イギリスの朝食は「トーストにマーマレード」というのが
ポピュラーな組み合わせです。
フランスの食パン
フランスではPain de mie(パンドゥミー)と呼ばれる、四角い柔らかい食パン。
「mie」は、「身(中身)」を表します。
つまり、硬いパンを好むフランス人にとっては“バゲットの中身だけ″ともとれるパンなのです。
1600年にイタリアからフランスに嫁いだカトリーヌ・メディシス王妃がいますが、
その宮殿のパン職人が焼いて宮殿で人気だったのが、塩やビール酵母を加えて作った「パン・ア・ラ・レーヌ」です。
それは白くて柔らかいスポンジのようなパンでした。
1665年、そのパンをもとにパリのパン職人が牛乳やバターを加えて改良しました。
さらに、18世紀には製粉と発酵技術が発達しさらに改良されました。
また、19世紀にはイギリスからジャガイモを使用したレシピが入ってきて、これもフランス人の口に合い評判となりました。
しかしながら、フランス人が好むパンはバゲットやクロワッサン。
サンドウィッチはバゲットですし、Pain de mie(パンドゥミー)は食事のお供にはいたしません。
そんなことから、あまりPain de mie(パンドゥミー)が食卓に登場することはありません。
Pain de mie(パンドゥミー)はパン屋さんではなくて、スーパーで工場生産を買うのが一般的です。
そんな中、パン屋さんでも目にするのは、クロックムッシュやクロックマダムです。
アメリカの食パン
アメリカでは角食のことをプルマンブレッドまたは、サンドウィッチローフと呼んでいます。
プルマンというのは「プルマン鉄道」が由来で、角食の姿が列車の形に似ているところからつけられました。
しかし、アメリカではどちらかというとワンローフ型の食パンが主流です。
さらに言うと、白い小麦粉よりも全粒粉やグラハム粉、とうもろこし、レーズンなどを混ぜたワンローフ型の食パンに人気が集まっています。
日本の食パン
日本の食パンは呼び方のみならず、独特な進化を続けています。
きっかけはイギリスやフランス、そして少なからずアメリカの影響もあったはずですが、
他国に比べて日本の食パンは配合がリッチです。
それに、スーパーパン&コンビニパン(工場生産)・ベーカリーパンが独自に開発や改良をしているので、「食パンの定義」を定めるのが難しくなっているほどです。
特に大手の工場もプライベートブランドでパンを出している時代ですから。
さらに、ホームベーカリーで各家庭でも食パンが焼かれるようになった…これほど食パンが愛されている国は珍しいのではないでしょうか。
日本の食パンは『菓子パンに分類される』とも言われています。
食パンスライスの文化
明治初期にイギリスの山型食パンが外国人用に作られたのですが、
その後の神戸では、米騒動を期に朝食に食パンが選ばれるようになりました。
そして、太平洋戦争後にサンドウィッチを食する占領軍兵士の要望で、角食の8枚切りを販売するようになりました。
今では、パンのスライスは当たり前の存在です。
▣4枚切り…30㎜→喫茶店のモーニング用など
▣5枚切り…24㎜→関西で人気
▣6枚切り…20㎜→関東で人気
▣8枚切り…15㎜
▣10枚切り…12㎜→サンドウィッチ用
▣12枚切り…10㎜→サンドウィッチ用
基準が角食のスライスなので、他のサイズのパンのスライスを依頼するときは
「4等分にして」なのか「4枚切りの厚さ(3㎝)にして」なのかを伝えないと
意思の疎通がうまくいかない場合があります(・・;)
食パンの単位の変化
なぜだかわかりませんが、食パンは魚のそれのように単位の呼び方が変わります。
魚とちがうのは、小さくなるにつれてなのですが…
▣食パンの長い丸ごと/棒状…1本
▣食パン丸ごと/または長い1本のうちのひとつ…1斤
▣食パンスライス…1枚
▣ちぎった食パン…1切れ
「斤」は重量の単位。
本来の1斤は約600gで
通常角食1本分は3斤と数えられます(^^♪
まとめ
パン屋さんで「イギリスパン」「プルマン」「ワンローフ」「パンドミー」などを見かけたら、それは全部食パンと思ってよいのです。
そして、同じ名前の食パンの味や見た目が、別の店のものと全くちがうなんてことがあるのはこのような理由からだと思ってください。
イギリスやフランスに行って食パンを見て「あれ?思ってたのとちがう」となると思いますが、それも日本のパン文化として楽しんでください。
今日は「表皮をクラストと言わず、パンの耳っていうのは食パンだけだよ」
「日本のベーカリーにとって食パンの売れ行きは大事な指標だよ」
「世の中が不況になると食パンの売上が増えるという説があるよ」というおはなしでした。
コメント