
パンの基本は穀物です。穀物の形状や性質のちがいから世界中で様々なパンが生まれています。
その中でもっとも一般的なのが、小麦です。
小麦の中でもグルテンの強さから、パンにより多く使われているのは強力粉です。
では、どうして小麦は小麦粉なのか?というのが今日のおはなしです。
小麦のはなし


小麦は茎から離して殻をとると粒になります。“小麦の拡大図”はその粒を縦に切った断面図です。
胚乳部分がやわらかくて、粉になった時に白っぽく見えているところです。
また、“小麦と米の断面図”で見るように、小麦には溝がついています。

米は胚乳部は硬いのですが、
小麦のような溝はありません。
そんなわけで、精米と製粉はやり方が異なるんですね。
小麦はなぜ粉にするの?

小麦をわざわざ粉にするなんて『きっと何かの理由があるはず!』そう思いますよね。
古代の人たちも雑草に紛れて生えていた大麦や小麦を見つけて、食するうちに粉にしました。
ざっと挙げられる理由は3つあります。
①そのままでは料理しにくい
・米や大麦とちがって小麦には殻をとってもかたい皮があるから
②小麦の解体が難しい
・皮を取ろうとすると、粒に溝があり取れにくい。
・胚乳部分がやわらかいので崩れやすい
③粉にするとグルテンが出やすい
・粒のままではグルテンは出ません

つまり、そのままでは食べづらい/料理しづらいけれど、
ひとつずつ分解するよりも、全体をすりつぶして粉にしてから分ける方が容易なのです。
小麦を粉にする道具

小麦を小麦粉にするには道具が必要です。
現在では電気が通り、製粉会社が複数あって製粉業を担ってくれています。
19世紀後期までは電気以外の力をかりて、製粉作業をしていました。
古代の製粉はどのようなものだったのかをまとめましたので、ご覧ください。
手作業 小規模の製粉 サドルカーン

そもそも粉にする前には、麦の穂の茎から実を離して殻をとる・粒にすることが必要ですが、
それは棒で叩いたり、動物に踏ませるなどの手段で行われていました。
今から1万年前(日本は旧石器時代)、西アジアで使われていた石臼と杵は、長さ1mの大きなものです。
膝をついて全身を使って挽くこの重労働は女性の仕事でした。
この石臼(カーン)は馬の鞍(サドル)に似た形なのでサドルカーンと呼ばれています。
手作業 大型 ロータリーカーン


ローマ時代(日本は縄文時代)には回転式の石臼(ロータリーカーン)になります。ずいぶん効率が上がったと思われます。
しかしそれはとても大型で、高さ約2mその重量は数百㎏だったと言われています。
これを動かしていたのは奴隷やロバでした。

現代でもアフリカやインドでは、
同様のロータリーカーンが使われていますよ。
水車

中世ヨーロッパ時代(BC400年/日本は弥生時代)にはギリシャで、水車による製粉が始まりました。
水車の製粉は100年後にローマ人にも伝わりましたので、大正解ですよね。
これまで人力や動物の力をかりていたものを、よく水の力にたどり着いたと感心します。
誰もがそう思ったのでしょう、11世紀(日本は平安時代中期ー後期)にはヨーロッパ各地に広まりました。
風車

水車に憧れても、水がないところや平らな土地には水車は使えません。
そこで次に出てきたのが風っ!風車です。
12世紀(日本は飛鳥時代)のペルシア・ロシア・北ヨーロッパに広がり、
そしてそのままドイツ・イギリスへどんどん伝わっていきます。
風車で有名なオランダに伝わったのは15世紀になってからです。
17世紀のフランスでは、製粉後にふるいわけをする現代と似たような製粉方法が始まりました。
製粉と蒸気エンジン

水車と風車は製粉のためにとても役に立ちましたが、まだまだ進化します。
18世紀に蒸気機関が発明されて、水蒸気が動力源となります。
1784年(日本は江戸時代)イギリスのウエストミンスターに作られた製粉工場では、
30の蒸気機関を動力に使った石臼が並んでいて壮観だったと思われます。
小麦の製粉 自動化
その後、アメリカで製粉工場の自動化が次々と試行されます。
この時代までの製粉工場は全ての産業の中で最も進んだもののひとつでした。
製粉はいつも人類の歴史のリードするものでした。

長い間続いてきた石臼で粉を挽く時代に幕を引いたのは
19世紀後半の鉄製のロール式製粉機の実用化です。
以来、製粉産業も近代的な工業化への道をひた走るわけです。
小麦と製粉 まとめ

昭和40年代ころの日本では、秋になると麦を踏む農家の風景(麦踏)が冬の風物詩と呼ばれていたそうです。
一方で、秋の麦と書いて麦秋(バクシュウ)は夏の季語だそうですね(収穫期は初夏だけど、熟した麦の収穫は秋だから)。
日本でも小麦はいろんな形でかかわりがあり、とても身近な存在となりました。
20年くらい前は、“日本の小麦はパンに向いていない“と言われていましたが、
最近はパンに適した国内麦が多く出ており、わたしも色々試しています。
今日は「小麦が小麦粉になるにも歴史があったよ」
「国産の強力粉もパンに適しているものが増えてきたよ」というおはなしでした。

小麦のはなしはまだまだ尽きませんね(^^♪
続きはまた今度…
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