スパイス・ハーブもまた、パンにとても良いアクセントを与えてくれます。
ある時は生地に練り込み、ある時はソースやクリームに使用し、またある時は仕上げの彩りに使います。
世の中にあるスパイス・ハーブの種類は計り知れないので、その中から一部を厳選して紹介していきます。
スパイスの歴史
今日では、世界各国のほとんどの料理に欠かせないスパイスですが、遡ると人類が地上に誕生した時から利用されていたと思われます。
古代エジプトでは、ピラミッドに携わる奴隷たちに大量の玉ねぎとニンニクを与えて、疲労回復・スタミナ増進に役立てました。
ミイラには防腐作用の強いシナモン・クローブ・クミンなどが詰められて保存されました。
中国では、クローブを口に含み口臭を清めたと言います。
このようにスパイスは、薬用・香料・神仏の祭り・祭事用・媚薬・保存剤などとして、金や銀に匹敵する高価なものと扱われました。
その後、中世ヨーロッパでは、食用の利用も盛んになりました。
特に肉食中心のヨーロッパの人々の間ではコショウの需要が多く、東洋のコショウがスパイス貿易の中心となりました。
マルコ・ポーロの『東方見聞録』で、ヨーロッパの人々の東洋進出の夢が駆り立てられ、
クリストファー・コロンブスやヴァスコ・ダ・ガマ、フェルディナンド・マゼランなどの海の冒険者たちを生み出しました。
大航海時代とスパイス戦争
ポルトガルのヴァスコ・ダ・ガマは、コショウやシナモンを安価に入手する道を開拓。
フェルディナンド・マゼランはポルトガルに更なる独占の道を開きます。
彼の戦死後、残った部下たちによって航海が続けられ、香料諸島(モルッカ諸島)を発見。
クローブ・シナモン・ナツメグなどをスペインに持ち帰りました。
以後、スペインの海洋進出がどんどん進み、唐辛子・オールスパイス・バニラなどのスパイスに加え、
トマト・とうもろこし・カカオ・パパイヤ・七面鳥・タバコなどの新しい産物をヨーロッパにもたらしました。
陸路に代わって海洋貿易が開拓されると、西欧各国はスパイス産地の独占を狙って争奪戦を繰り広げました。
海賊行為や友好的な交易…様々な知恵と戦略の末、クローブ・シナモン・ナツメグ・カルダモン・ジンジャーなどの栽培地が拡大されました。
19世紀中ごろには、原産地よりも移植された土地の方が生産量が多い状態になり、スパイス戦争の勢力は徐々に落ちていきました。
これでようやく庶民の手に入るようになったのです!
スパイスってなぁに?
一般的なスパイスの定義
飲食物に風味をつけるための、副材料として用いる芳香性植物の一部で、嗜好的な香り・辛味・色を持っているものの総称
具体的には、植物の一部分(果実・花・つぼみ・樹皮・茎・種子・根・地下茎など)や乾燥品、または有効成分も入ります。
特有の香り・辛味・色調を持っており、香りづけ・消臭・調味・着色などの効果をもたらします。
さらに、食欲増進・消化吸収を助けるなどの作用があり、
食生活に大きな影響を与えてくれます。
スパイスの成分
それぞれのスパイスには、香り・辛味・色の素となる特有の成分があります。
⑴香り…主体となるのは精油成分によるもの
⑵辛味成分
スパイス名 | 主な辛味成分 | 辛味の特徴 |
チリペッパー | カプサイシン | 持続性がある舌が焼けるような辛味 |
コショウ | ピペリン | ピリッとした辛味 |
ジンジャー | ジンゲロン | 爽やかだが強い辛味 |
マスタード | パラハイドロオキシベンジ ルイソチオシアネート | 刺激弱め、マイルドな辛味 |
ホースラディッシュ | アリルイソチオシアネート | 鼻にツンとくる強烈な辛味 |
⑶色素成分
スパイス名 | 色素成分 | 色の特徴 |
ターメリック | クルクミン | 酸性から中性のもの→黄色 アルカリ性のもの→赤色 油に溶ける |
パプリカ | カプサンチン | 赤から赤橙色 熱に強い 油に溶ける |
サフラン | クロシン | 黄色 水によく溶ける 少量でも効果大 |
それぞれの表はオーソドックスなものを例に挙げてみました。
スパイスの分類
膨大な種類のスパイスを、どのように分類するか?
分類方法は料理別・特性別・植物の利用部位別・植物学上の科目別などがありますが、
ここでは欧米式の分類で5つに分けて少しだけ紹介します。
⑴スパイス…花・つぼみ・茎・果実・樹皮・根茎類
オールスパイス、クローブ、サフラン、シナモン、ジンジャー、ターメリック、チリペッパー、パプリカなど
⑵シード…種子類
アジョワン、アニス、キャラウェイ、クミンなど
ディル、コリアンダー、フェンネル(葉も利用できるセリ科のもの)
⑶ハーブ…葉・花穂類
オレガノ、サボリー、セージ、タイム、タラゴン、チャービル、チャイブ、バジル、パセリ、ミントなど
⑷香味野菜
玉ねぎ、エシャロットなど
⑸ミックススパイス
五香粉、ガラムマサラ、カレー粉、チリパウダー、ピクリングスパイス、ブーケガルニなど
スパイスの実用形態と特徴
スパイスは生と乾燥品(加工)に分けられます。
▣生…摘みたてのフレッシュな風味が味わえる
▣ホール(原形のまま乾燥)…料理に本格的な香りをつけたい時や長く加熱する時に使用
▣パウダー(粉末乾燥)…手軽に使えるが香りが飛びやすい
この他に
粒マスタード・豆板醤・タバスコなどのように
各スパイスに調味料を加えた二次加工品もあります。
スパイスの働き
スパイスの働きは4つです。
⑴香りづけ…全てのスパイスは特有の香りを持ち、料理においしそうな風味をつける
例)カルダモン、クローブ、オールスパイス、フェンネルなどに強い作用がある
⑵味付け…辛味だけではなく、甘みやほろ苦さなど特有の味わいで、料理の味を引き立てる
⑶色付け…料理に彩りが添えられる
例)ターメリック、サフラン、パプリカ、チリペッパーなど
⑷臭み消し…肉や魚の生臭さをやわらげ、食欲をそそる香りに変える
調味のタイミング
同じスパイスでも、生・ホール・パウダーそれぞれに役割があり、料理によって使い分けが必要です。
煮る・焼く・炒める・漬けるなどの調理法にあったスパイスを選んで、特徴を活かすタイミングで加えます。
一つの料理が仕上がるまでに、スパイスを使うタイミングは三度あると言われています。
⑴下ごしらえ…下味・下煮・下ゆで・漬けこみなどにより、肉や魚の臭みを取って味をしみこませる
⑵調理中…加熱中に加えるが、はじめ・途中・終了間際など料理によって使い方を工夫する
⑶仕上げ…仕上がった料理にふりかけて風味を高める
例)サラダ、グラタン、シチュー、スープなどにパプリカ、パセリ・コショウなど
素材とスパイスの相性
それぞれの素材に合わせた相性の良いスパイスの一例です。
肉料理
▣牛肉…香りの強いものは使用せず、アクセント的な働きをするスパイスを使用します。
例)ペッパー、チリペッパー、ガーリック、マスタード、ジンジャー、ホースラディッシュ、パセリなど
▣豚肉…特有の臭みを消すスパイスを使用します。
例)タイム、セージ、パプリカ、ナツメグ、ガーリック、ジンジャー、スターアニス、カレー粉など
▣淡白な鶏肉…優しいスパイスを。
例)バジル、オレガノ、ローズマリー、タラゴン、タイム、ジンジャーなど
▣独特の匂いがある羊肉…そのクセを抑えるものを使用します。
例)カルダモン、クミン、ガーリック、シナモン、カレー粉、ミント、タイムなど
野菜料理
▣サラダや漬物…爽やかなもの
例)生のハーブスパイス、ペッパー、マスタード、セサミシード、カレー粉など
▣煮物…野菜の自然な甘みを引き出すもの
例)キャラウェイ、タイム、オレガノなど
▣炒め物…香りづけ
例)ジンジャー、コリアンダー、ガーリックなど
魚貝料理
▣あっさりしたもの(白身・エビ・イカなど)…ディル、パセリ、ペッパー、チリペッパー、ガーリック、ジンジャー、エシャロットなど
▣特有のクセの赤身(マグロ・ブリなど)…ペッパー、ジンジャー、マスタード、コリアンダー、フェンネルなどで匂いを抑える
▣青魚…ペッパー、ジンジャー、ガーリック、タイム、コリアンダー、フェンネルなどで匂いを抑える
▣淡水魚(あゆ・ニジマスなど)…ペッパー、ジンジャー、タイム、オールスパイスなどで旨味を引き出す
卵料理
▣オムレツ・スクランブルエッグ・キッシュなど…ペッパー、ガーリック、タイム、セージ、バジル、パセリ、オニオンなど
▣仕上げ…パプリカ、カイエンペッパーなど
豆料理
▣煮込み・スープ・サラダ…セージ、タラゴン、バジルなど
▣豆カレー…アジョワン、ターメリック、クミン、チリペッパー、コリアンダーなど
米・麺料理
▣炊き込みご飯・リゾット・炒飯など…サフラン、ターメリック、パプリカ、ガーリック、ジンジャーなど
▣パスタ・ニョッキなど…ガーリック、ナツメグ、バジル、オレガノなど
その他
▣ハーブティー…レモングラス、ミントなど
▣コーヒー・紅茶・ワインなど…ジンジャー、シナモン、カルダモン、クローブなど
▣ビネガー・オイル…好みのスパイスで
スパイスとパンやお菓子
▣甘味や香ばしさをつけたい時…シナモン、アニス、フェンネル、セサミシード、ポピーシードなど
▣スパイシーにしたい時…キャラウェイ、クミン、ジンジャー、クローブなど
▣爽やかな味にしたい時…ローズマリー、オレガノ、タイム、オレンジ、レモングラスなど
▣冷たいデザート…バニラ、シナモン、クローブ、スターアニス、ミント、ローズマリーなど
参考記事:レシピ6 フォカッチャ
フーガスのはなし
ピッツァのはなし
ガーリックトーストのはなし
まとめ
フランス留学時に、各家庭で見かけた複数のスパイスボトルを収納する“スパイスラック”に憧れて購入しました。
好みのハーブスパイスを選んで、市場でたくさん購入したけど、当時は上手く使いこなせませんでした。
今日は「またスパイスラックに挑戦したい!」「スパイスは奥深くて楽しい!」
「パン生地にも入れ過ぎないように気をつけて!」というおはなしでした。
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